"『泣き虫しょったんの奇跡』


『泣き虫しょったんの奇跡』予告編 - YouTube

 

泣き虫しょったんの奇跡

 

泣き虫しょったんの奇跡』という映画を観に行きました。その内容のまとめ記事です。

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~ストーリー~
実在の棋士・「しょったん」こそ瀬川晶司氏の将棋人生を基に制作された映画。
本作では瀬川役を松田龍平が演じている。

将棋界でプロになるには、その前段階で「奨励会」に所属し、試合で勝ち上がっていく必要がある。
しかし、26歳までに四段昇格の条件を満たすことができなければ奨励会を退会させられ、プロへの道・将棋人生が強制的に断たれてしまう。

瀬川氏は奨励会に長く籍を置き、仲間が次々に去る現実を目の当たりにしながらも
自分はプロになれると信じてやってきたが、壁を超えられずにとうとう「その日」を迎えてしまう。

だが、将棋との縁が切れたわけではなかった。

大学に進学、その後就職しアマチュアとして将棋を続けていたが、プロとの交流戦で勝率7割を超えていたことが周囲の目にとまり、
前例のない「プロ編入試験」によってプロを目指すことを提案される。
棋士や連盟の賛否両論を巻き起こしたが試験の実施が認められ、
プロとの6番勝負にて勝利を重ね、条件を突破し、
伝統的なしきたりの強い将棋界では異例、初のアマチュアからのプロ棋士という偉業を成し遂げた。

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奨励会退会を余儀なくされた棋士のその後とは。


大学進学や就職という一般的なレールから外れ、将棋に全てを注ぎ込んできた彼ら。(瀬川の世代では中卒で奨励会の道に進んだ者も珍しくないという。)
長年の積み重ねが無くなり、自分はゼロになってしまったのだ、社会に放り出された自分には何もないのだという絶望を突きつけられる。
このシビアな年齢制限だが、もっぱら実力不足を宣告し社会に繋がるレールを敷いてあげるという意味では、ある種のいびつな温情といえなくもない。

しかし当人には残酷でしかない。作中で、もっと頑張っておけばよかったという後悔に苛まれ、なぜ将棋なんてやっていたんだと矛盾するような後悔も発露し、瀬川は苦しむ。
映画を観ながら切ない気持ちに締めつけられた。


年齢制限のある競技って他に幾つあるだろう。
参加資格ではなく上限としての。
以前のブログで、38歳で現役を続ける末続慎吾選手の

「アスリートには勝ち負け(=進退)を選べる自由がある」という言葉を取り上げたが、
将棋のプロへの道、ここでは一定のレベルに達することができなければ存在すら認められない。
辞める、のではなく、
辞めさせられる、という世界がある。そこに意志など機能しない。


自身も将棋経験があり17歳まで奨励会に所属していたという監督は、映画へのこだわりをパンフレットのインタビューで明かしている。

この原作を僕以外の人が撮っていたら、奨励会のことはそんなに描かなかったんじゃないですかね。
それよりも(瀬川氏が)奨励会を辞めてからどうやってプロになっていくかの物語を集中的に描こうと考える人のほうが多いんじゃないかな。
だけど、僕は奨励会の苦しさを映画にしたかった。
(中略)
辞めていくやつらを、僕自身が10代でたくさん見たわけです。

挫折して消えていくことに対する悔しさを間近で感じていた。

 

苦悩という影をしっかり描ききるこそ、
しょったんの奇跡の光は、より輝いて見えるのだ。