虫時雨

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『美人の日本語』(著:山下景子、幻冬舎、2005)

 

 

 

わたしが小学生、おそらく10歳くらいだったころ

1ページにひとつ日本の言葉が書かれ、意味が紹介されている本を買ってもらった。

君影草』『愛逢月』『玉響』・・・

現代では聞きなれない、俳句の歳時記にでも載っていそうな綺麗で美しい日本語がたくさん収められていて、幼心にわくわくしたのを微かに覚えてる。

そのなかの言葉をひとつ選んで紹介してみます。

 

虫時雨

「虫時雨」(むししぐれ)とは、鳴きしきる虫の音を、降ったり止んだりする小雨の音にたとえたものだそう。

日本人は虫の鳴き声を「左脳」で聞く、世界でも数少ない民族だという!

右脳で物音や雑音として聞くだけではなく、

まず右脳で感じた音を左脳で翻訳して「ことば」として聞いている。それをまた右脳で感じている、ということらしいです。

虫の声が雨音みたいだと感じられる、想像力の豊かさが日本人にはあるということなのかな。

 

最近すっかり涼しくなり、夜になると

2階の自分の部屋にいても鈴虫の声が聞こえてきます。

 

大学に入学してすぐの頃、私の家は引っ越した(一人暮らしするではなく、実家が)。

最寄りの駅からバスで15分の住宅街。

その前に住んでいた家は、歩いてすぐ最寄り駅に着ける線路沿いのマンションだったのに。

それが、駅までバスに乗る、と!不便でしょうがない。

忙しい朝が始まる。まず家からバス停まで10分歩く。夏はそれだけで汗だく。

横断歩道、信号が赤に変わった瞬間に乗りたいあのバスが通りすぎていく…1限はよく遅刻していた(自分が悪い・・・)。

近くにはホームセンターや薬局くらいしかなくて、いかにも郊外。不便な場所だなぁと思ってた。

 

それが、7月に大阪のおばあちゃんが初めて家にきてくれたときのこと。

「静かでええなぁ」ぽつりと呟いた言葉に、はっとした。

車の通りがないのでいつの時間もここは静寂。勉強の妨げになる電車の走る音も学生の部活のかけ声も聞こえない。

おばあちゃんはそのあと「(息子=私の父が)立派に家を建てて…」と、感慨にふけって涙ぐんでいた。

 

鈴虫の澄んだ鳴き声を感じられるくらい、穏やかな暮らしを与えてもらっているのだと気づきました。

 

最近は天気が良くない日が多いけれど

そんな空気の湿った雨の夜に

鈴虫はよく鳴いている気がします。

私はそれを聴いて、なんだかギロみたいな音色だなぁなんて思いながら、眠りにつきます。